奇跡とクリスマス

俺は奇跡を信じていなかった。奇跡なんて多くの場合、可能性の小さい事が偶然に起こった瞬間をとらえて大騒ぎするものなんだと思っていた。
あるはずのないと思っていた常識外れの事が起こったとしても、それはただ、自分の今まで知らなかった可能性が発現しただけで、一旦起こってしまえば、初めて地震や流れ星や日食を経験したときと同じように、俺の常識が更新されるだけなんだと思っていた。
だから奇跡を信じる人なんて、論理的破綻を怖れない背信者か、2流メロドラマを愛する可哀想な少女だけだと思っていた。
俺はいつも通り夜遅くまでバイトをして、疲れた帰路を辿っていた。東京ドームの周りはライブ終わりのカップルと、クリスマスイルミネーションの光の粒で埋め尽くされていた。
光の門をくぐるカップル達は、ただそこに無数の電球が取り付けられてキラキラ光っているというだけで、自分達が出会い、愛し合い、今そこに立っているという、ごく一般的な事実を、時が止まったような感覚、永遠とか運命とかいう漠然とした感覚、つまりは奇跡なんていう、本質的に矛盾に満ちた概念と結び付けて、無邪気に喜んでいるに違いない。

俺はいちゃついて行く手を遮るカップルを、落ち着きのないガキの次に憎んでいる。そしてその夜はそういうカップルばかりだった。
ここは一つ石川五右衛門ばりに、すれ違いざまの気合い一閃、カップルの女の肉体にセクハラでもして、世に正義が尽きる事のない事を、世に罰せられぬ罪のない事を、クリスマス気分に浮かれたヤツらに思い知らせてやろう。
そんな妄想に耽りながら、ラクーアを貫く煌めきの回廊をくぐり抜け、長い階段を降りて、一歩ずつ、俺の愛する現実世界へ舞い戻っていく。
しかし、ふと俺は、原因不明の胸騒ぎに襲われて、階段の途中で立ち尽くした。
とうの昔に忘れた筈の、もやもやしているのに確固とした、優柔不断なのに向こう見ずな、説明のつかない心の高ぶりに戸惑い、これ以上一歩も先に進んではいけない事を予感した。俺は、俺のなすべき事は、見下げ、嘲笑する事ではなく、振り返り、見上げ、恥じらいに微笑する事なのだと。
俺はゆっくりと振り返った。俺が辿ってきた道のり。見えそうで見えなくて、いらいらが募り、夢中で駆け抜けた道のり。通り過ぎて初めて気が付いた穢れのない美しさ。
俺はゆっくりと振り返った。光の回廊に吸い込まれていく、通り過ぎたばかりの階段を、、見上げた。
光の渦から浮かび上がるように女の子が現れる。
女の子の巻き髪に光が灯り流れる。
女の子は階段を颯爽と降りてくる。
一陣の風が女の子のスカートを巻き上げる。
ちらりとのぞく純白の永遠。





クリスマス、、、、万、、歳、、、、☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆






運命と奇跡に、、、、乾、、杯、、、、☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆