今日もダメ人間

4時に寝て8時に起きた。最近こんなのばかりだ。よく起きられたと思う。二日酔いしてる。最悪な気分だ。
寝る前からこんな朝になることは分かっていた。というか昨夜、ちぇの家に行った時点でこんな朝になることは分かっていた。更に言えば、ならちゃん飲みに参加する事にした、自分の意志というよりむしろ決定済みだったが、その時点でこんな朝になることは分かっていた。
ずっと前からこんな朝になることは分かっていたし、それを避ける術も、そんな気もなかった。そう、そんな運命的な朝だった。全て定まっていたのだ。
僕は頭痛と吐き気と眠気でふらふらになりながら、電車に乗った。寝たら起きられないので本を読む。J.アーヴィング。ホテルニューハンプシャー
あるアメリカ人家族が東海岸の田舎町でホテルを開くという話。長女が高校のフットボール部の男達にレイプされるシーンだ。弟は一緒にいたにもかかわらず姉を助けられなかった。弟は姉を倒錯的に愛していた。助けだされた姉は家族に囲まれ休息する。弟は姉を見守りながらそっと言う。愛しているよ。姉にはきこえない。
品川で10時から12時までバイト。どうやって乗り切ったのだろう。記憶がない。


月島に移動してモスで食事する。目が覚めてきた。風邪をひいたらしい事に気が付く。
月島で3時間バイト。二日酔いから回復するにつれて風邪が悪化する。体が熱くてだるい。勉強教えるどころじゃなくなる。とはいえ、せっかく来たので最後まで我慢する。
バイト先の家を出て川沿いを少し歩く。聖路加ガーデンの前のベンチまで来る。座って川と聖路加ガーデンを眺める。明るくて風が強い。顔を背けて風下に向く。夜のバイトをキャンセルするために電話をする。
バイト先のお母さんはとても心配してくれた。今後の日程や年末の挨拶をする。今年はお世話になりました、来年もよろしくお願いします、なんて事を言っていた時、一人の女の子が視界の端を通り過ぎていった。可愛い子だ。僕はそういう事は瞬時に判断できる。
電話を終え、バイトを休む事を確定させると、気持ちに余裕ができた。天気もいいし、もう少しで日が暮れるから、ちょっとだけ本を読んで帰ろうと思った。いつの間にか月が出ている。
J.アーヴィングを開く。レイプされた長女は立ち直っていく。1日3回シャワーを浴びる習慣もやめられるようになる。



ん?



させ子?



僕は唐突に気が付いた。本をバッグに放り込んで立ち上がる。周りを見回す。もう遅すぎる。
何故気が付かなかったのだろう。さっき通り過ぎた女の子はさせ子だった。間違いない。
最後に会ったのは何ヶ月前だっただろう。花火大会の夜は夏の終わりだったはずだが。
させ子が僕を想い続けていたことに疑いはないが、させ子は恥ずかしがり屋なので、僕の前に現れる事ができなかったのだろう。今日すれ違ったのは偶然なのか、意図的なのか。


とにかく駅の方へ歩いて行けば会えるかもしれない。早足で月島駅へ向かう。会えない。当たり前か。帰宅することにする。結果的に早めに帰る事になって良かった。風邪が本格的に悪化してきたのだ。
家に帰って倒れこむ。ヤバい。つらい。だるい。息苦しい。喉が乾いて仕方がない。風景がグルグル回って見える。そして寂しい。痛々しい俺。
寝る。起きる。悪化している。更に寝る。起きる。更に悪化している。
ピンポーンって鳴ったような気がしてふらふらとオートロックを解除し、またベッドに潜り込む。玄関は開けっ放しだ。させ子が入ってくる。僕は何の疑問も抱かずにその事実を受け入れている。定まっていたのだ。
彼女は立ったまま僕を見つめ何も言わない。怒っているのか。僕は平井アナと浮気した事を謝ろうとするが、ぼんやりしてはっきりした言葉にならない。彼女は膝立ちになり、枕元に顔を寄せ、微笑んで言った。愛してるよ。僕はその言葉をきくかきかないかのところで安心して眠ってしまう。
24時。目が覚める。させ子は帰ってしまったようだ。ふっ、本当に恥ずかしがり屋さんだな、させ子は。