何もしたくない日

昼に起きた。何もしたくない。当然ベッドから出ない。昨夜、といってももう明け方になっていたが、読んでいた本を読み続ける。
読み終えたので、靴下を履き、ダウンジャケットを羽織り、弁当を買いに行く。ニュースを見ながら食べる。下らない。談合とか詐欺とか殺人とか戦争とか祭りとか懐妊とか健康とか感動とか。ニュースなんて再放送でもかまわないんじゃないか。
眠くないし、何もしたくない。うちのカーテンはチェック模様で、カーテンの向こう側から弱められた太陽光が射してくる。太陽光の中心にある正方形が一つ横にずれる間に、何回自分が呼吸するのか試してみた。ついでにその結果から、僕の目とカーテンまでの距離を算出しようと思った。だが、解けそうにないし、計算上の誤差が目測の誤差を遥かに上回る事が確実なのでやめた。とはいえ少しだけソフィスト気分を味わった。
こんな午後の時間が気に入ったので、もっと空虚な事をしようと思った。窓際に赤いセーターがかかっている。それを黄色いセーターだと思い込もうとしてみた。色彩感覚に貼り付けられた名称を変更するのではない。感覚そのものを入れ替えるのだ。黄色を見た時に視神経を伝わる刺激と赤色を見た時に視神経を伝わる刺激を脳で同等に扱うのだ。難しい。どうしたらできるのかな。
しばらくしてその赤いセーターには黄色の要素も含まれていることを発見した。黄色のスペクトルのみを選択的に知覚し、残りはスルーできないだろうか。
寒い時に、無理やりあったかいって言ってみたところで暖かくはならない。それは名称を変更しているに過ぎないからだ。だがしかし、寒いといっても絶対零度でない限り幾分かは暖かいわけで、その暖かさを選択的に知覚することができればいい。寒さなどスルーしてしまえばいい。凍死などあり得ない。
そうこうしていたら突然平井アナが来るという。部屋を軽く片付けて、迎える。平井アナがコップを洗ってくれるのでそれを後ろから眺めていた。昨夜本で読んだ例のシーンを思い出した。『「コップなんて後にすればいい」僕たちは寝室に行く。』
後ろからいたずらしてみた。彼女は何も言わず、コップに冷水を注ぎ、僕の顔面にかけた。
変態!!彼女は蔑むような目で僕を見据えた。
いやいや、変態ではない。変態ではないが、もっと蔑むような目で見られたいので、変態だということにしてもいいかなと思った僕は変態だろうか。