実家ライフ

前回帰省した時には街全体が寂れていた。今回は街全体に活気があった。
新しい店が沢山できて、古びた看板は塗り替えられていた。どれもがキラキラしてるだけでセンスのない店と看板。
小泉景気ってヤツがこんな田舎町にまで波及しているのかな。小泉政治の実態がどうあろうと、靖国がどうあろうと、県庁が札束を燃やそうと、地球温暖化がどうあろうと、好景気に浮かれた岐阜の街は何の不満も抱いてはいないようだ。むしろ大満足なんだろうな。
岐阜羽島の駅に着いたのは22時くらいか。最初は間違えて下車したのかと思った。駅前には『高陽社』なる怪しげな企業のビルが合計7、8個も並んでいる。見知らぬ会社だ。看板には『高陽社:絶対安心。21世紀の新しい予防法!!』と書いてある。極めて不安である。何を予防するのかをまず書いて欲しい。
田舎はこんなもんだ。誰もが筋の通らない怪しげな事物を疑わないままでいる。いや、半信半疑のまま受け入れているのかな。
田舎では、良いものも悪いものも、無批判に受け入れる事が美徳であるようだ。もし僕が何かの矛盾を指摘したり、正統な疑問を呈したりすると、屁理屈ばかり言う気難しいヤツだと非難される。親もよく「田舎ではこうなんだから。受け入れなきゃいけないよ。」などと言う。
親が駅に迎えに来てくれるまで、駅前をフラフラ歩いて時間をつぶした。涼しい。秋の虫が既に鳴き始めていたが、すごく静かで、俺はこんな静かな所で育ったんだっけって思った。
新幹線の駅前なのに暗い。さすが岐阜。明るいのはラブホテルのネオンだけ。さすが岐阜。

自慢じゃないが岐阜のラブホテルは朝食を部屋出しするからね。和食と洋食も選べたりするんだぜ。さすが岐阜。すごくない?レベル高いよ。ポイント貯めると、明らかに偽物のブランドバッグが貰えるからね。それを別の女の子にプレゼントしたりして、その子も何故か同じバッグ持ってて、喧嘩になったりね。レベル高いよ。
駅の裏のベンチで待つ事にした。建物が低い。展望を最終的に区切るのは山の影。あとは田んぼ。たまに新幹線が通る。怖いくらいに暗くて静か。一番嫌なのは広さ。
ぼんやりした不安。東京から帰省するといつも感じる。思い返してみると東京に出る前は日常的に感じていたんだと思う。
東京には東京に似合うスタイリッシュな不安がある。速さに対する不安、孤独に対する不安、自分の精神バランスに対する不安、自分の能力に対する不安。
父が迎えに来た。めっきり老けてびっくりだ。白髪が増えたし、全体的に希薄になった感じだ。存在が。景色に溶け込み過ぎて、透けて見えそうだ。焦った。
まあ、でも元気だし、よく考えたら年相応のルックスだ。むしろ若いか。
それにしてもこんな所に住んでいたら希薄になるのも当然だ。僕にとっては、ここではあらゆる物や出来事や話題や人々が、全て時代遅れで、こだわりの感じられない二流品に思える。何でもっと頑張って達成しようとしないんだろうって思う。だから僕は自分が卓越して、公平で、浮いているのを意識してしまう。
でも山とか田んぼとか無駄にデカい工場とか見てると、結局同じ事だし、ごちゃごちゃ変なこだわりみせるより、地元に住んで、近所付き合いでもして、不味い喫茶店で井戸端会議なんかしてる人は偉大だなって思ったりする。
車で20分くらい走り、実家の近所のファミリーマートに。レジで父が店員に僕の事を紹介しだした。「こいつ、息子。東京から帰って来てるんだよ。」マジで勘弁してくれ。そもそも店員と仲良くなるなよ。
家に帰り着くと母がいた。犬が飛びついてきた。母も老けてて焦った。気付かれたのか「度々帰ってこないと一気に老けるから。」と言われた。犬が喜びのあまり走り回っている。その日はすぐ寝た。