昨日の料理の事

買い出しに行く。ラクーア成城石井成城石井が無駄に高いって事がやっと分かるようになった。でも仕方ない。近いんだ。
にんにく、鷹の爪、卵、生クリーム、白ワイン、黒胡椒、サフラン、パルメザンチーズ、スパゲティーニ、パンチェッタを買う。
そう、作るのはカルボナーラ。チャーハンではない。俺はカルボナーラの作り方を知らない。本に書いてある通りの食材を買い揃えた。
書いてある通りに作る。全て計量する。素人にオリジナリティなんか必要ない。有名料理人が長年かかってたどり着いたレシピを越えられるわけないのだ。大切なのはそのレシピの意味を深く理解することだ。ダメ人間はそこの所が分かっていない。
勢いに任せて何の裏付けもないクリエイティヴティーを発揮し、自分にちょっと才能があるんじゃないかと勘違いするが、その結果生み出されるものは、良くて既に先人が発見し常識化しているものであり、つまりオリジナリティーの欠片もなく、また大半の場合安易で表層的な、誤ったクリエイティヴティーしかない、散漫かつ傲慢な最低最悪の料理なのだ。
そもそも俺はクリエイティヴティーとかオリジナリティーしかない物や人は大嫌いなのだ。人と違った事をするのは難しいなんて嘘だ。人と違った真実を見つけるのが難しいのだ。ただ人と違っているだけで深みがなければ、それは真の創造ではないのだ。深みとは世界観の完成度の高さとでもいうべきで、その深みは先人のそれを上回っていなければ、ただもの珍しいだけで、普遍的価値などはなく、もの珍しさを生み出すという薄っぺらい才能を誇るくらいならば、先人の偉大さに追従する徒弟で終わった方が見苦しくない。もっとも時間をかければ、自己流でも良い線いくかもしれない。しかし、効率の面でも深さの面でも、偉大な先人に学ぶに越した事はないのである。


①オリーブオイルに潰したにんにく、鷹の爪を加えて弱火にかけ、香りを出すのだ。
にんにくが臭い。前に買ったもの違う。臭いを押さえたにんにくにすれば良かった。
②パンチェッタを炒めるのだ。弱火でじっくり脂を溶かし出すのだ。
パンチェッタはイタリアのベーコンの事らしい。どの程度が弱火か、どの程度がじっくりか分からない。
③生クリーム、白ワイン、サフランを加えるのだ。にんにくと鷹の爪を取り出すのだ。塩胡椒少々。
仕方ないからフィーリングで入れる。この段階でかなり旨い。
④スパゲティーニを茹でるのだ。
スパゲティーニはスパゲティより少し細いものを指すのだ。水は最低3リットルだ。塩は1%だ。
⑤茹でる間に全卵、卵黄、生クリーム、パルメザンチーズをボールに入れ、よく混ぜるのだ。塩胡椒少々なのだ。
よく混ぜるとはどの程度だろう。パルメザンチーズは長期保存できる缶入りのものは論外だと本に書いてあった。なるほど論外なのか。知らなかった。ちゃんとブロックのやつ買ってきた。すりおろす。缶入りのよくあるパルメザンチーズは論外なので、当然捨ててしまうのだ。
⑥黒胡椒をみじん切るのだ。
これが難しい。みじん切りと書いてある以上、予め刻んであったり、パウダー状になっているものは論外に違いない。ちゃんと粒状のものを買ってきた。振りかけるだけの胡椒なんて論外なので、当然捨ててしまうのだ。
しかし粒胡椒を刻むのは容易でない。丸いからコロコロ逃げるし、両断した瞬間に飛び散る。潰そうとしても同様。悪戦苦闘してキッチン全体をカルボナーラにしてやっと少量の使える胡椒を手に入れた。深い。
などと感慨に耽っている間にスパゲティーニ茹で過ぎたのだ。スパゲティーニはソースと絡める時に更に火が通るから、早めにあげるって書いてあったのに。。早めどころか6分のところを9分も茹でちまったぜ。
茹でた後、湯をきり過ぎちゃいけないのだ。日本人はラーメン屋のイメージで、麺についた湯を、きればきるほどいいと思っているが無知蒙昧も甚だしいらしい。知らなかった。しかし俺は既に啓蒙された、いわばカルボナーラヴォルテールなので、湯はきらないのだ。


茹でたスパゲティーニ、パンチェッタ、卵汁を、弱火にかけたフライパンで混ぜるのだ。
しまった。仕上げにかけるパルメザンチーズをすりおろすのを忘れていた。すりおろすぜ。すりおろすぜ。



ジュージュー☆☆
ジュワジュワジュワ☆☆☆
おう!食欲をそそる良い音と香ばしい匂い!!
、、、、、、、、っておいっ!!!フライパンの卵汁が焦げて卵焼きみたいになってるやんけ!!!
う、、まずい。絡めるだけでいいのに、パルメザンすりおろすのに夢中になって、フライパン放置してた。
火を止める。急いでかき混ぜる。焦げる。どんどん焦げる。ヤバい。水分補給に生クリームを流し込む。余熱FUCK!
回復不可能。卵焼きがスクランブルエッグになった。つーかこれ、チャーハンやん。炒飯っていうか、炒麺やん。
うん!!むしろ炒麺にしよう。というかむしろ炒麺が食べたかった。というかむしろ元々炒麺を作っていたんだ。
だったらカラッとしなきゃ。生クリームを蒸発させる。大量のオリーブオイルで炒める。カラっとした麺が長すぎると食べにくいだろうから、麺をフライパンに入ったまま包丁で切り刻む。天性の応用力と創造力と細かな配慮を発揮する俺。
うん!!カラッした麺にパラパラの卵が絡んだ、カルボナーラ風チャーメン。
新しいぜ。なかなかない。きいたことない。自分の才能に惚れる。そしてまずい。死ぬほどに。