ゆったりとした午後の一時を過ごし、

気持ちよく家を出発しようとした。玄関を出て、エレベーターのボタンを押す。上から下にエレベーターが通過していった直後だった。上には大家さんしか住んでいない。実際に大家のおじさんが沈んでいくのが、チラッと見えた。おじさんを載せたエレベーターが1Fに到着して、再び僕の前に舞い戻り、その扉を開き、僕を優しく受け入れてくれるまでの、数十秒間は意外と長く、僕はせっかくの気持ちよい1日の始まりに、早速暗雲が立ち込めたように感じた。とはいえ、OPTIMISTICな僕は、ただ「ありえれいなっ!!」とか「いや、やはりここは『ありえれいにゃ』の方が相応しいがだがしかし、キーワードが、、」などと呟き、時をやり過ごした。
そうこうするうちに、玲菜(エレベーター)が僕のもとに駆けつけ、優しくOPEN HER ARMSした。そして僕はその胸に飛び込んだ。
扉が閉まり、動き出す。


ん?んんっ!?く、くっ、臭い!!臭いぞ、玲菜っ!!においにそれ程敏感ではない僕だが、それでも危うく失神KOされかけたほどに薫り高い。もっ、もしやこれは大家のおじさんの残り香ではないのか?おそらくおじさんはこんな昼間に出入りする住人はいないだろうと油断して、エレベーターの中に馥郁たる臭気を放置していったのだ。
玲菜ぁぁぁああああ!!!!!!!こっ、この売女がぁぁぁぁあああああ!!!!!!!!お前というヤツは俺というヤツがいながら、その内部に別の男の残り香を漂わせているとはぁぁぁぁぁあああああ!!!!!


僕は怒りと悲しみにうち震えながら、泣き崩れた。早く玲菜の胸の中から逃れ、冬の街を駆け抜けたかった。自分の涙を玲菜に見られたくなかった。だがしかし1Fまで玲菜に運んでもらわざるをえない自分の立場が悔しかった。
永遠とも思える数十秒の後、僕らは1Fに到着した。そして2重の悲劇が僕を襲った。なんと1Fのエレベーター前に人がいるぅぅぅぅぅぅうううう!!しかも女の子だぁぁぁぁぁぁああああ!!俺じゃないのに!俺じゃないのに!!この臭いは俺のせいじゃないのに!!!
僕は恥ずかしさのあまり顔を上げる事もできず、エレベーターの入り口で女の子とすれ違った。


ん?んんっ!?させ子!!

「ごめんなさい。来ちゃった。」
「い、いや、、来るのはいいんだけど、今はまずい。。」
「え?どういう意味?ていうか、うっ! くっ、臭い!!」
「ち、違うんだ、させ子。俺じゃない、悪いのは全て玲菜なんだ。」
「えっ?玲菜って誰?」
「あ、しまっ、、、いや、その、エレベーターの事をそう呼んでるんだ。。。」